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大阪家庭裁判所 昭和46年(少ハ)21号 決定 1971年12月07日

少年 M・A(昭二六・七・二〇生)

主文

本人の中等少年院における収容を、昭和四七年三月一五日まで継続する。

理由

第一申請の趣旨および理由の要旨

一  本人は昭和四五年一二月一二日、大阪家庭裁判所において昭和四五年少第三二二七号、第三九七二号、第八五二四号窃盗、暴行、恐喝傷害保護事件につき中等少年院送致決定を受け、同月一五日奈良少年院に入院し、以後普通ないし良好な成績で、昭和四六年一〇月一日、一級上の段階に達し、同年一二月一一日をもつて少年院法一一条一項但書による収容期間を満了するものである。

二  本人は同年三月一七日以来、同少年院付設の奈良電気工事士養成所の生徒として電気工事士資格取得のため勉強中であり、昭和四七年三月一五日に同養成所を卒業の予定である。

三  よつて、主文と同旨の決定を求める。

第二当裁判所の判断

本件審判における本人、保護者(母)M・T子、奈良少年院分類保護課長篠原逸男、担当法務教官西田俊一の各供述並びに本人に対する少年調査記録に基づいて判断するに、

一  本人の犯罪的傾向は昭和四三年一月以来、道路交通法違反或いは傷害、恐喝保護事件について保護観察決定を二回受け、次いで窃盗保護事件により試験観察(補導委託)中、逃走し、暴行、恐喝、傷害事件を惹起して「申請の趣旨および理由の要旨」第一項のとおり、奈良少年院に送致されるに至つたその経緯、軽佻性-短絡即行、依存性-自主性欠如を主たる特徴とする本人の性格、小心で大酒飲みの父親、貧しい家計、劣悪な交友および地域環境等を併せ考えると、顕著なものであつた。

二  本人の院内での成績は概ね良好であつて、努力賞を二回、学科賞、技能賞を各一回授与されており、規律違反行為が額の毛技き(昭和四六年四月二一日、謹慎三日、減点三点、但し、謹慎は一ヶ月間執行猶予)、陰部への玉入れ(同年八月四日、謹慎七日、減点七点)と普通程度のものが二回あつたに留まり、矯正教育の効果は著しく、このまま進むと少年院法一一条一項但書による収容期限である同年一二月一一日ころには一級上の処遇段階も終了する見込みである。

三  ところで本人は現在、「申請の趣旨および理由の要旨」第二項のとおり、電気工事士法(昭和三五年法律第一三九号)四条二項二号に基づく電気工事士の資格の取得を目指しており、収容継続が認められないと同養成所の生徒たる資格を失うこととなる(同養成所学則一〇条)。

職業補導を主たる理由とする収容継続が許されるか否かが問題であるが、当裁判所は、

(一)  当該職業補導の続行が犯罪的傾向を確定的に矯正するために有効であること。

(二)  院内での教育でなければならない必然性があるか、或いは院内での教育による教育効果が高いこと。

(これに当らない事例として、広島家決昭三六・一〇・三家裁月報一三巻一二号八六頁参照)

(三)  本人に技術を修得することについての意欲が見られること--本人がこれを理由に収容継続を希望する場合には、概ねこの条件が満たされると解して良い。

(これに当らない事例として、札幌家岩見沢支決昭四四・九・二家裁月報二二巻五号一一六頁、大阪家決昭四五・一〇・二八家裁月報二三巻六号一〇四頁各参照)

(四)  収容期限後、比較的短期間内に必要な職業補導課程を終える予定であること。

(これに当らない事例として、上記大阪家決参照)

以上、四条件のすべてが満たされる場合には、少年院法一一条四項、二項に該当するものと考える。

そこで本件について上記の四条件を考えるに、上記(一)については、本人の過去における頻繁な、多種に亘る転職(キャバレーのボーイなど水商売関係を含む)の事実に照らせば、この際、電気工事士という法的資格を取得することが本人の犯罪的傾向の確定的矯正のために有効であると認められる。

(二)については、収容継続が認められない場合には本人は電気工事士の資格を得るために最初からスタートし直さなければならず、挫折感を味わうこと必定であろうし、果たして社会に出て有為な職業を選択するであろうかも疑わしい。従つて院内での教育効果は著しく高いと認められる。

(三)については、本人が審判において、過去の生活態度を改めるために電気工事士の資格を取りたい、家庭の経済状態からして電気関係の学校に通学することは不可能であつて、院内での教育を是非受けたい旨述べており、技術取得の意欲が充分認められる。

(四)については、本人の勉強態度や知能(IQ一二一ないし九五)からすれば同養成所の前記卒業予定日に卒業し得る見込みが強いこと、約三ヶ月の収容継続期間はやや長期であるが、本人の希望や潜在的な犯罪的傾向を考慮すれば、やむを得ないと認められる。なお、かかる場合、収容継続の期間を定めるにつき、仮退院後の保護観察(犯罪者予防更生法三三条一項二号)を考慮する必要性は乏しいものと考える。

以上の次第で本件申請は理由があるので、少年院法一一条四項、少年審判規則五五条により主文のとおり決定する。

(裁判官 太田幸夫)

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